一口で言えば、耐食性が良いとされているステンレスの耐食性を一層向上させ、更に異種金属との接触により発生する電気化学的反応(異種金属接触腐食/電食)をも抑制するという「表面改質技術」です。
めっきや塗装のように表面に何かを被覆する技術とは全く異なり、素材そのものの表面層(後述の不動態被膜)を10倍程度厚く生成(改質)させる技術です。
ステンレスには一定量(10.5%以上)のクロム(Cr)が含まれています。クロムは酸素(O)と結合力が強く、空気中の酸素と容易に結合します。結合すると酸化被膜(Cr2O3)が形成されて安定します。この被膜は一度形成されると長期間外部の腐食環境から内部を守ってくれます。また、ねじ込みなどにより被膜に傷が付いても、傷面のクロムが新たに大気中の酸素と結合して被膜を再生させる性質があります。この自己修復機能が「鉄」との最大の違いです。鉄はめっきや塗装など被覆をすれば耐食性を向上させることが出来ますが、めっきの塗着量は薄膜なので限度があります。また、塗装はピンホールなど目に見えない欠陥部や傷部から短期間で赤錆が生じやすいという欠点を持っています。
尚、ステンレスの酸化被膜は外部環境に対して不動(安定)であることから「不動態被膜」とも呼ばれます。本項では不動態被膜と呼びます。この不動態被膜の強さは、ステンレスの鋼種(クロムやニッケルの含有量)により異なります。ねじなどファスナーに使用される主要鋼種の耐食性に順位をつけるとすれば、以下のようになります。
SUS316 > SUS304系(XM7等) > SUS430 > SUS410
ファスナーは多くの種類の金属と接触しますが、異なる金属と接合した際に生じる「異種金属接触腐食(電食:写真3)」の原因について記します。金属にはそれぞれ固有の電気的性質「自然電位」というものがあります。この電位が異なる金属を接触させて水分などが介在すると、電位の低い方の金属の腐食が促進されてしまうのです。参考に電位の高低例を示します。尚、電位が離れる金属ほど電食の発生は顕著になります。
亜鉛(Zn) <アルミ(Al) <鉄(Fe) < SUS410 <SUS430 <SUS304 <SUS316 <銅(Cu) <チタン(Ti)
自然電位列
サスガードはファスナーの耐食性を向上させるのみならず、相手材の腐食を抑制する効果があります。
近年、ソーラーパネル架台や部材にアルミやマグネシウム等を含有した亜鉛系高耐食鋼板が用いられるケースが増えています。サスガードはこれらの鋼板とファスナーとの間に生じる電食をも大きく抑制する効果を発揮します(写真4)。アルミ板とSUS410(一般処理品)のドリルねじの組み合わせでは塩水噴霧試験240時間未満でアルミが腐食するのに対して、サスガード処理品(右側)ではアルミの変化はほとんど見られません。この電食抑制効果が認められ、アルミや亜鉛系高級鋼板用ファスナーとして推奨されています。
SUS410一般処理品 | SUS410サスガード処理品 |
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写真4 アルミ板との電食促進試験SST240時間 |
※注意事項
サスガードは主にSUS410製ドリルねじの耐食性を向上させるために開発した技術で、施工性や強度などねじの機械的特性を向上させる効果はありません。
サスガード処理されたSUS410ドリルねじであっても特定の厳しい腐食環境や異種金属と接触して使用すると腐食する事があります(下記参照)。
<特定腐食環境>
・海塩腐食環境 海岸部近く、特に軒下部など塩が付着・蓄積する条件
・亜硫酸ガス害環境 発電所、重工業地帯、温泉地帯など
・次亜鉛素酸付着環境 温水プール、養鶏・養豚畜舎などの塩素系殺菌剤使用環境
・化学薬品使用工場 めっき工場など、酸・薬品を使用する環境
<特定異種金属例>
前述の自然電位列でSUS410より高電位な金属(SUS430, 304, 316, 銅、チタンなど)と接触する場合
詳しくは技術資料「SUS410SG処理ねじ使用上のご注意・使用環境と取付材質の影響」を合わせてご参照ください。
JPFは多くの促進試験データと経験則を持っておりますが、ファスナーは様々な相手材や環境で使用されることが多いため、腐食のメカニズムが複雑で可否の判断が難しいケースがあります。
既存の試験データや経験則で判断できない場合は、想定される条件での促進試験を行い、結果をもとに協議しご納得頂いた上でご使用頂く場合もございますので、事前にご相談頂けます様お願いいたします。